札幌地方裁判所 昭和50年(ワ)1197号 判決
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【判旨】
そこで、亡大弘、原告マイは、意思能力を有していないから、本件売買は無効であるとの原告らの主張について検討する。
心神喪失、即ち自己の行為につき合理的判断をする能力(意思能力)を欠く「常況にある」者は禁治産宣告を受けることにより個々具体的な行為の時点での意思能力を問題とすることなく、その者の行為を一律に取り消すことができるのであるから、その反面として右の如く禁治産宣告を受けていない場合は意思無能力を主張する者において具体的な行為当時において行為者が心神喪失中であつたことを主張立証しなければならないと解される。しかして、本件売買当時、原告マイらが禁治産宣告を受けていなかつたことは当事者間に争いがないところであるから、本件売買当時の右両名の意思能力の有無についてみなければならないところ、右両名は読み書きは出来ず、昭和四一年には接枝性分裂病と診断されていること前認定のとおりであり、右診断結果によると、亡大弘、原告マイは精神薄弱の基盤の上に分裂病が発現していることが推認され、また、原告勝房本人は、大弘について「精神異常者で普通の人間として働く能力は全然考えられない」、原告マイについて「かせぐ能力や判断力がなくあたりまえの人間ではない」旨等の供述をし、原告吉松本人も「両名は幼稚園児程度の能力である」旨等の供述をしている。しかしながら、分裂病そのものは直ちに知能低下を意味するものではないし、原告マイらの精神薄弱の程度も明らかではなく(尤も右の診断書によると「廃疾の状態にあり」との記載があるが、右診断書の交付目的は明らかではなく、文面からすると稼働能力を欠くとの点に重点があるとも解せられ、右記載から直ちに原告マイらが白痴あるいは重度の痴愚であつたとは断定できない)、また、昭和四一年当時の診断書により直ちに本件売買のなされた同四五年八月当時の原告マイらの精神状態を判断することはできず、既にみたとおり両名はともかくも小学校に入学しており(因みに証人海道友衛は両名は小学校六年生位の能力であると証言している)、また、四四五号事件について訴訟上の和解が成立した昭和四四年四月一〇日当時は両名は行為の結果を弁識し判断する能力、即ち意思能力を有していたと認められること(原告らもこのことは当然の前提としているものと解される。けだし、そうでなければ少なくとも原告マイ、大弘に関しては本件土地持分の取得の原因を欠き、亡大弘の持分の相続等を前提とする原告らの主張と相容れず、原告らの請求はその限りにおいて失当たるを免れない。)等からすると、頭初の事実及び証拠をもつてしては本件売買当時原告マイらが意思能力を有していなかつたと認めるには十分ではなく、その他右両名が本件売買行為時点において意思能力を欠除していたと認めるに足りる証拠はない。
(宗宮英俊)